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東京高等裁判所 昭和54年(ネ)184号 判決 1981年8月31日

控訴人 小出増雄

右訴訟代理人弁護士 佐藤恒男

右訴訟復代理人弁護士 土屋英夫

被控訴人 株式会社三和総業

右代表者代表取締役 小倉ヤマ子

右訴訟代理人弁護士 中津市五郎

同 中津靖夫

主文

一  原判決を次のとおり変更する。

1  控訴人は被控訴人に対し、金六〇〇万円及びこれに対する昭和五〇年七月一三日から完済に至るまで年六分の金員を支払え。

2  被控訴人のその余の請求を棄却する。

二  訴訟費用は第一、二審を通じこれを二分し、その一を控訴人の、その余を被控訴人の各負担とする。

三  この判決の主文第一項の1は仮に執行することができる。

事実

控訴代理人は、「原判決を取り消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は、控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の陳述及び証拠の関係は、次のとおり付加、訂正又は削除するほかは原判決事実摘示中の「第二 当事者の主張」及び「第三 証拠」の各記載(原判決二丁表五行目から四丁表五行目まで)のとおりであるから、ここにこれを引用する。

原判決二丁表九行目に「不動産(以下、本件不動産という)」とあるのを「土地(以下「本件土地」という。)」と、同丁裏一行目の「本件不動産」を「本件土地」とそれぞれ訂正し、同丁裏四行目冒頭に「その結果」を加え、六行目を「が成立した。」と訂正し、同七行目の冒頭に番号「3」を加え、同行の「一七条」を「四六条」と、同一一行目の冒頭の番号「3」を「4」とそれぞれ訂正し、同三丁表四行目の「取引」の次に「業」を加え、同六行目の「原告が」から同九行目末尾までを「控訴人が訴外大亜観光株式会社に本件土地を売り渡したことは認めるが、その余の事実は否認する。右売買契約が成立したのは昭和四八年一二月一〇日であり、その代金額は五億四三六二万円であった。」と訂正し、同丁裏一行目から二行目にかけての「原告主張の日時に二、〇〇〇、〇〇〇円ずつ合計」を削除し、同三行目の「認めるが、」の次に「その余の事実は否認する。」を加え、同三行目の「いずれも」及び同五行目の「いずれも」をそれぞれ削除し、同八行目の「甲第一号証」の次に「(写し)」を、同九行目の「古金徳夫」の次に「(第一、二回)」をそれぞれ加え、同九行目の「尋問」を削除し、同行の末尾に「被告本人」を、同一〇行目の末尾に「は」を、同四丁表一行目の末尾に「(ただし乙第四号証は写し)」をそれぞれ加え、同二行目の「尋問」を削除し、同三行目から四行目にかけての「署名印影」を「作成名義」と、同四行目の「その余の作成部分」を「その余の作成名義部分の成立」とそれぞれ訂正する。なお原判決別紙(物件目録)五行目を「合計一五万一一九七平方メートル(約四万五七四七坪)」と訂正する。

《証拠関係省略》

理由

一  《証拠省略》によれば次の事実が認められる。

本件土地はもと控訴人の所有に属していたところ、昭和四七年ころ訴外東急不動産株式会社は、宅地として造成するため本件土地を含む附近一帯の土地約二〇万坪を買収することを計画した。訴外大亜観光株式会社は、右計画に基づき右東急不動産株式会社のために土地を買収しようとしていたものであるところ、そのころ被控訴会社に対し本件土地の買収の斡旋を依頼した。被控訴会社は、不動産取引の仲介等を業とする会社であり、当時その役員であって、のちに代表取締役となった小倉ヤマ子は、控訴人と面識があった。そこで、右ヤマ子は、控訴人に対し本件土地の売却を勧めたところ、控訴人は、売却そのものには必ずしも反対ではなかったが、昭和四八年秋ころより以前に売却すると、税法上いわゆる短期譲渡に該当し多額の納税が必要となることを理由として直ちに売買契約を締結することに難色を示し、且つ売却する場合の価額として一坪(三・三平方メートル)当たり金一万円を希望した。他方前記大亜観光株式会社の買受け希望価額は一坪当たり金六五〇〇円であった。ヤマ子は、控訴人の意向に対する右会社側の意見をきいたうえ控訴人と再三交渉するなど両者の間の調整に努めた結果、右会社は控訴人から一坪当たり金一万円の単価をもって本件土地を買い受けること及び控訴人の税金対策上昭和四八年一一月以降に正式の売買契約を締結することにつき両者の意思の合致をみるに至った。そして、昭和四八年二月一日被控訴会社の当時の代表取締役小西正男の立会いのもとに、控訴人と右大亜観光株式会社代表者古金徳夫の両名により、本件土地の売買につき右の合意等を記載した契約書が作成され、右会社は、同日控訴人に対し契約金として金二〇〇〇万円を支払い、且つ残代金を同年二月末日に支払うことを約すとともに、右支払金については消費貸借の形式をとり、その旨の公正証書を作成することを承諾した。同会社は、同年四月ころ控訴人に対し残代金の大部分に相当する金五億円を支払った。控訴人は、その後右古金徳夫の求めに応じて右金五億円のうち金四億円を融資の名目で右会社に交付し、金一億円を手許に留保した。右会社及び控訴人は、昭和四八年一二月一〇日本件土地の売買代金を金五億四三六二万円と約定し、右会社は、同日右代金の内金として控訴人に対しさらに金一億五〇〇〇万円を支払った。そして、両者は、右売買代金につき右金一億五〇〇〇万円に控訴人が留保した金一億円を加えた金二億五〇〇〇万円の支払があったものとし、その旨の売買契約書を作成した。右会社は、控訴人に対し昭和四九年六月一七日にも右売買代金の内金として金一億五〇〇〇万円を支払った。ところが、その後本件土地の所有権の帰属に関して右会社及び訴外大佐和農業協同組合と控訴人との間に紛争を生じ、昭和五〇年一〇月二二日、控訴人が右会社に対し本件土地を代金五億四三六二万円で売り渡したことを確認するとともに、控訴人は、その代金の内金として代物弁済を受けた分を含めて金四億〇三六二万円の支払を受けたものとし、残金一億四〇〇〇万円の請求権を放棄することを内容とする裁判上の和解が成立した。その間控訴人は、前記小倉ヤマ子の要求に応じて被控訴会社に対し、本件土地の売買の手数料として昭和四八年一二月二七日及び昭和四九年七月三日各金二〇〇万円ずつ合計金四〇〇万円を支払った。

以上のとおり認められ(る。)《証拠判断省略》

二  右事実によれば、当時被控訴会社の役員であり、のちにその代表取締役となった小倉ヤマ子は、大亜観光株式会社から被控訴会社への依頼により控訴人に本件土地の売却を勧めて同人にその決意をさせたうえ、両者の間に立って売買条件の調整に努めた結果、その売買契約を成立させるに至ったものということができるが、本件に現れたすべての証拠によっても、右売買につき控訴人が被控訴人に対して仲介を委託する趣旨の契約が両者の間に成立したことを認めるに足らず、しかも、上記認定の事実から黙示的に右趣旨の契約が締結されたものと認めることも困難である。

しかしながら、小倉ヤマ子が右のように調整に努めて本件土地の売買契約を成立させた行為は、不動産取引の仲介等を業とする被控訴会社の営業の範囲内に属する行為であり、且つヤマ子は、控訴人のためにその行為をしたものということができるから、被控訴人は控訴人に対し、右行為につき商法第五一二条により相当額の報酬を請求することができるものというべきであり、被控訴人の本訴請求が叙上の請求を含むものであることは、弁論の全趣旨により明らかである。ただ、被控訴人が控訴人に対し同条に基づく報酬請求権を取得するためには、被控訴人が客観的にみて控訴人のためにする意思をもって仲介行為をしたものと認められることを要する、と解されるが(最判昭和五〇年一二月二六日民集二九巻一一号一八九〇頁参照)、前認定のように、控訴人は、売買の単価として一坪当たり金一万円を希望し、且つ税金対策として短期譲渡とされることを回避できる方法によることを条件としていたところ、成立した売買契約は、ほぼ控訴人の右意向に沿ったものということができ、この事実と《証拠省略》を綜合すれば、ヤマ子は、委託を受けた大亜観光株式会社の利益のためにのみ右仲介に当たったのではなく、売主及び買主の双方の立場を尊重しつつ、妥当な条件の下に売買契約を成立させるべく努力し、それを実現させたものと認められるから、客観的にみても控訴人のためにする意思をもって仲介行為をしたものというべきである。従って、控訴人は被控訴人に対し、被控訴人がした右仲介行為につき相当額の報酬を支払う義務があるものといわなければならない。

三  そこでその報酬額について検討するに、《証拠省略》中には、控訴人が小倉ヤマ子に対し仲介の報酬として売買代金額の三パーセントないしは二〇〇〇万円を支払う旨約したとの部分があるが、右各供述は、《証拠省略》に照らしにわかに採用し難く、他に控訴人と被控訴人との間において本件土地の売買に関する仲介の報酬につき合意が成立した事実を認めるに足りる証拠は存在しない。そして、《証拠省略》によれば、前掲大亜観光株式会社は、被控訴人に対し被控訴人の右仲介行為に対する報酬として売買代金額の約二パーセントに相当する金一〇〇〇万円を支払ったことが認められる。ところで、宅地建物取引業法第四六条に基づく建設大臣告示(昭和四五年一〇月二三日建告第一五五二号)によれば、宅地建物取引業者が不動産の売買の媒介等に関して受けることのできる報酬額は、目的物の価額に応じて、二〇〇万円以下の金額につき一〇〇分の五、二〇〇万円を超え四〇〇万円以下の金額につき一〇〇分の四、四〇〇万円を超える金額につき一〇〇分の三以内と定められているが、右はその報酬額の最高限度額を定めたものであるから、報酬額に関する約定がない場合において右の最高額をもって直ちに宅地建物取引業者が受けるべき相当な報酬額であるとすることはできない。そして前認定の小倉ヤマ子による仲介行為の内容及び商事仲立人の報酬は当事者双方が平分して負担すべきものと定めている商法第五五〇条第二項の法意並びに本件において買主である大亜観光株式会社が負担した報酬額を超える額の報酬の支払義務を売主である控訴人に負担させるのを相当とする特段の事情を認めるに足りる証拠は存しないことを併せ考慮すれば、控訴人が被控訴人に対して負担すべき報酬額は、右大亜観光株式会社が負担した額と同額である金一〇〇〇万円と認めるのが相当である。

控訴人が被控訴人に対し本件土地の売買に関する手数料として合計金四〇〇万円を支払ったことは前認定のとおりである。したがって控訴人は被控訴人に対し、右報酬金一〇〇〇万円から右弁済額金四〇〇万円を控除した残金六〇〇万円及びこれに対する本件訴状が控訴人に送達された日の翌日である昭和五〇年七月一三日から完済に至るまで商事法定利率年六分の遅延損害金を支払う義務があり、被控訴人の本訴請求は右の限度で理由があるが、その余は理由がない。

四  そうすると、叙上と趣旨を異にする原判決は、主文第一項記載のとおり変更を免れない。よって、訴訟費用の負担につき民訴法第九六条、第九二条、仮執行の宣言につき同法一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 川上泉 裁判官 橘勝治 大島崇志)

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